前世の名はリオン、そして吸血鬼として終わりを迎えた名はGetsuya──「月夜」と書いてげつやと読むその響きが、杜甫の漢詩に結ばれていると知ったのは、つい最近のことだ。
魂は幾度も姿を変えたが、魂の本質はルシフェルの血を継ぐAuel皇子として、この世界の深い影に立っている。
兄妹は引き裂かれ、母は神に殺され、神は天へ追放された。 傲慢の血統は静かに脈打ち、吸血鬼としての記憶はまだ胸の底で赤く光っている。
月夜という名が開く、魂の古層
その時の名前は、リオンだった。 そして、中世ヨーロッパにいた時の名はGetsuya。 今調べてみてわかったのだけれど、「getsuya(げつや)」というのは、主に中国の唐代の詩人・杜甫が詠んだ有名な漢詩の題名「月夜」を指すらしい。
僕の名前は「立花 月夜」。何も考えずに「月夜」と書いて「げつや」と読んでいたけれど……そういう漢詩があるなんて知らなかった。
英国で生まれ、ドイツで死んだ吸血鬼の記憶
Getsuya時代はイギリスで人間として生まれ、吸血鬼としてドイツで死んだ。 だからGetsuyaとしては吸血鬼だ。 「僕」は、Auel皇子よりもGetsuyaに近い性格をしている。
Auel皇子は僕自身だけれど、体を共有している妹・ルエルとは少し違う。 Auel皇子と僕は、コインの裏表のようなもの。ルエルはまた違う別のコインだ。
僕には前世の記憶があるけれど、Auel皇子にはない。彼が生まれたのはここ30年くらいのこと。いと高き者たちに名前を与えられてからのことだ。
傲慢の血統──ルシフェルの影を継ぐ者
ラファエルさん曰く、彼は若いころのルシフェルに顔も性格もそっくりらしい。
七つの大罪「傲慢」を司るにふさわしい性格だったんだなあ、パパ(ルシフェル)は。 現在のパパ・ルシフェルは温和だ。というより、感情を出さない。 悪魔は感情を出さないものなのかな。
けれど、序列が高くない悪魔は結構ワーワー騒いでいるイメージがある。
だから、堕天使と悪魔の違いなのかもしれない。 ……けれど、フルーレティは悪魔か。単なる性格の違いだろうか。
お披露目されない皇子──存在を秘められた子
僕は現在お披露目されていないため、正式なルシフェルの子ではない。
けれど、血統は間違いなくルエルと同じ、ルシフェルと女神の子。 「皇子」ではあるけれど、皇太子ではない。
そもそも、堕天使に「跡継ぎ」という概念はない。 ついでに年を取るという概念もなさそうだ。
でも、ミカエルさんがラファエルさんに「ミカばあ」と呼ばれていたのは内緒の話。 ばあさんではないんだけれどね。
冷酷なるAuel皇子と、僕の二重性
Auel皇子である「私」は、結構冷酷非道だ。 僕も決して優しくはないけれど。 菊池秀行氏の『秋せつら』みたいな感じかな。 メフィスト医師との絡みがいいよね。
フルーレティの監視下で
今、僕はフルーレティの直下に属している。 フルーレティが「上司」というわけではなく、僕を見張る担当みたいな感じだ。
城を出ようとしたりすると、フルーレティの部下たちに「お引き取りを」と立ち塞がれる。 ……彼らをからかうのは面白いんだけどね。
母が愛したのは、世界ではなくルシフェルだった
僕がルシフェルと同じ顔立ちで、性格まで一緒なのは、きっとママの願いだったんだと思う。 ママはルシフェルを深く愛していたから。
誰よりも「丁寧に作られた最高で最初の天使(アンドロイド)」が、ただ傲慢さだけで堕天しただなんて、人間は本当に信じているんだろうか。
ルシフェルが神の作った世界を壊そうとしたのは、ママがその世界を憎んだからだ。
好きでもない存在と生み出した世界。 彼女はその世界を愛せなかった。
だからルシフェルは、ママが愛せる世界を作ろうとした。 母に愛される、本来の世界を。
そのために全部捨てようとしただけなんだ。
天に追放された神──母を殺した理由
僕ら兄妹を産んですぐに殺されたママ。 神はどんなつもりで、自分を捨てて側近と逃げたママを殺したんだろう。
嫉妬か。愛か。それとも憎しみか。
それらの感情すらなく、ただ機械的な自分の世界を守るための排除だったのかも。
僕は覚えていないが、神を天に追い出したという。 僕というより、それは「私」がやったことなのかな。
分かたれた兄妹──ルエルと僕
ルエルの名前は「ルエル・アスター・ルキフェル」。 私の名は「Auel」。 ルエルはルシフェルに育てられ、僕は誰にも育てられていない。 兄弟妹なのに、僕らはばらばらに育ってここにいる。
闇の底に沈む弟の話
僕の弟? ……その話は、また今度。


