CHR-006-ハシュマル

闇に棲む者たち

ハシュマル

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黒曜人物誌
CHR-006

名称:ハシュマル
称号:神罰を告げる慈悲の炎
分類:主天使
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―― 狂気へと反転した「神の統治」 ――

主天使ハシュマル。

彼は「神の統治」と「神の支配」を体現する、厳格なる天使の軍団を大天使ザドキエルとともに統率していた。

主天使(ドミニオンズ)とは、神の意志を正しく執行し、下位の天使たちを統制する絶対的な規律の象徴である。

神の秩序そのもの。

それが、かつてのハシュマルだった。


第一章 神の命令

ある日、彼に重大な任務が下される。

それは、愛するルシフェルを追って闇へ堕ちた創世神の妻――創世の女神を天へ連れ戻すこと。

神の統治を司る彼は、その背に何者も逆らうことのできない「神の権威」を背負っていた。

その大いなる権威をもって女神を連れ帰る。

それこそが、神より与えられた絶対の命令だった。

しかし、その任務は失敗に終わる。

闇の底で、女神は彼の手を静かに振り払った。

神の権威よりも。

神の秩序よりも。

彼女はルシフェルへの愛という、「神の統制から外れた不条理」を選んだのである。


第二章 堕天

天へ戻ったハシュマルを待っていたのは、慈悲ではなかった。

神の激しい怒りである。

命令を果たせなかった主天使は、その場で天界を追放され、闇へと堕とされた。

彼は地の底で、ただ天を見上げ続けた。

任務を果たせなかった己を責め、

いつか神の怒りが解ける日を信じて。

しかし、その願いが叶うことはなかった。

どれほど忠誠を尽くそうと、

どれほど悔い改めようと、

光の神が赦しを与えることはない。

彼を待っていたのは、

救済ではなく、

理不尽だけだった。

統治を誇った彼の心は、

待ち続ける年月の中で静かに壊れていく。


第三章 ベルゼブブの猟犬

そんな彼に目を付けたのは、魔王ベルゼブブだった。

それは慈悲でも、同情でもない。

ベルゼブブは、かつて神の軍団長であった主天使ハシュマルの中に、まだ失われていない価値を見出していた。

それは、

天上の光を探知する能力。

神に仕えた主天使だけが持つ、光の気配を鋭く嗅ぎ分ける力だった。

壊れた精神。

神に見放された忠誠。

そのどちらにもベルゼブブは興味を示さない。

彼が欲しかったのは、ただ一つ。

光を狩る猟犬。

ベルゼブブはハシュマルを部下として迎え入れた。

いや、正確には。

光を探し出すための猟犬として飼い始めた。

軍事国家の王にとって忠誠とは感情ではない。

能力であり、

役割であり、

成果である。

壊れていようと構わない。

使える限り、その価値は失われない。

それがベルゼブブという魔王の統治だった。


第四章 光の赤子

やがて創世の女神がこの世を去ったことを、堕天使たちは魂の境界で悟る。

同時に、

女神がルシフェルとの間に二柱の子を産み落としたという噂が地獄中へ広がった。

その報せを聞いたベルゼブブは、静かに命じる。

「探せ。」

ただ、その一言だけだった。

しかし、その命令はハシュマルの壊れた心と完全に重なってしまう。

彼は確信した。

神とは必ず三柱の兄妹として生まれる。

闇を継いだ息子と娘だけで終わるはずがない。

もう一柱。

光を継ぐ子が、この世界のどこかに隠されている。

その瞬間から、彼は命令に従っているのではなかった。

己の狂気に従っていたのである。

ベルゼブブの猟犬でありながら、

その実、追い求めていたのは、

自らを狂わせた女神が遺した「光」だった。

彼は村を焼き、

街を滅ぼし、

光の気配を探し続ける。

黄金の髪を持つ赤子がいないと知るたび、

彼は振り返ることなく次の土地へ向かう。

彼の瞳に映るのは、

人でも、

命でもない。

ただ一つ。

光だけだった。


黒の観察者・観測記録

【観測記録 CHR-006】

神の秩序は、

世界を守るためにある。

だが、その秩序が救済を失ったとき、

それは最も残酷な狂気へと変わる。

ハシュマルは、

神に最も忠実だったがゆえに、

神に最も壊された天使である。


なお、ハシュマルは堕天した現在もなお、天界では「主天使」の名を剥奪されていない。

その理由についても、図書館には一つの記録が残されている。

司書より

彼は今なお、光を探し続けています。

それが神への忠誠なのか。

女神への執着なのか。

あるいは壊れた心が生み出した狂気なのか。

その答えは、まだ図書館の最奥に眠る別の記録に委ねられています。

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