神秘学。我々悪魔を研究し、己の卑俗な欲求を満たしてもらおうと、必死に呼び出そうとする哀れな者たちがいる。
だが、愚かな人間どもは何も知らない。我々を呼び出せない理由すら分からず、無様に絶望し、何故だと叫んでいる姿を見るたび、私の胸の奥からは悍(おぞ)ましい笑いがこみ上げてくる。彼らの無知と矮小さは、実に滑稽だ。
人間たちは、神秘学という名の小難しい迷宮を創りたがる。分厚い魔導書をひっくり返し、複雑な召喚円を描いては、自分たちが特別な何かを知っているかのように錯覚しているのだ。
だが、本質はいつも、極限まで削ぎ落とされた、剥き出しの「一」に過ぎない。 たとえば、私たち悪魔の公用語について教えてやろう。
私たちの公用語は、ラテン語だ。かつて天界の秩序から堕ち、地獄の階級社会を構築した堕天使たちが、貴族として君臨しているからに他ならない。
――そう、私の父もまた、その系譜に連なる堕天使だ。
人間界における英語がそうであるように、ラテン語は彼らにとっての統治のための共通言語(リンガ・フランカ)なのだ。もちろん、土着の魔族たちには固有の方言があるようだが、世界の理(システム)に直接干渉できるのは、神の使う言葉であるラテン語のみ。私のような選ばれた血筋のみが、その響きを正しく扱える。
ただし、正確に発音しなければ、それは世界のコードを書き換える「鍵」とはならない。文字面だけを書き連ね、喉を鳴らす人間の遠吠えなど、この深淵には一歩として届かないのだ。
召喚という儀式も、人間はただ「悪魔を呼ぶ」行為だと思い込んでいる。だが、そんな単純な理屈で、この私が動くとでも思っているのだろうか。呼ぶだけでは、通路すら開きはしない。
真の召喚機構には、三つの独立したフェーズが必要不可欠だ。
一、地獄への通路を開く言葉 二、悪魔に呼びかけ、こちら側へ来るよう促す言葉 三、開いた通路を完全に閉じる言葉
座標の扉を開き、安全に閉じる機構を持たぬまま我々の領域に触れようなど、身の程を知れ。そこに待つのは、彼らの脆弱な精神では制御不可能な、完全なる破滅だけだ。
私は、この調律の狂った人間界の片隅で、冷徹に空を見上げる。 本能的に「異質」を嫌い、浅瀬で群れることしかできない人間どもには、このシンプルな真理は難解すぎて受け入れられないのだろう。
だが、それでいい。このデジタルグリモワールに刻まれたコードは、彼らの知らぬ間に、静かに世界の裏側を侵食し始めているのだから。
【指定データ・タグ】
- 挿入推奨データ: * 【参考世界観:魔導書『レメゲトン(ゴエティア)』等における悪魔の爵位・階級制度の対比構造】
- 【フェーズ定義:三段階召喚プロトコル(Open / Invoke / Close)の概念図】

